外交官の仕事 試験対策

【総合職・専門職だけじゃない】外務省専門調査員と派遣員の魅力を解説(貴重な海外勤務経験)

大学二年生です。語学を学ぶのが好きで、外務省への就職に興味を持っていますが、総合職や専門職試験の難しさにいまいち踏ん切りがつきません。他方、専門調査員や派遣員という仕事があるのを知って興味が湧きました。詳細を教えてください。

こんな質問を頂きました。解説します。

私自身、在外公館時代には、専門調査員、派遣員の方々には本当に助けられました。今も彼らとの交流は続いています。

本記事の内容

  • 専門調査員と派遣員の仕事を解説(海外生活できる)
  • 試験内容も簡単に解説(結局日頃の勉強大事)
  • 専門調査員と派遣員が任期終了後に進む道(キャリアアップに最適)

もくじ

外務省在外公館専門調査員と派遣員

日本は、世界153カ国に230の在外公館を有し、それぞれに日本の外交官が赴任して職務を行っています。

在外公館には、大使館であれば大使をはじめ公使、参事官、書記官等が、総領事館であれば総領事をはじめ領事、副領事が、外務本省から赴任してきます。

ただ、在外公館で働いている人の中には、外務省から送られてくる人だけでなく、一般社団法人国際交流サービス協会というところから派遣されてくる人たちがおり、それが専門調査員派遣員です。

外務省在外公館専門調査員とは?

専門調査員を在外公館に派遣する国際交流サービス協会(外務省内では「交流」と呼んでいます)のHPには、以下のとおりあります。

外務省在外公館専門調査員とは、労働者派遣法の下で、わが国の在外公館(大使館、総領事館、政府代表部、領事事務所)に原則2年の任期をもって派遣され、在外公館の一員としてわが国の外交活動に資するため、語学力及び専門性を生かしつつ、在外公館長の指揮監督の下に、派遣国・地域の政治、経済、文化等に関する調査・研究及び館務補助の業務を行なうものです

http://www.ihcsa.or.jp/zaigaikoukan/sencho-01/

上記だけではイマイチよくわからないと思うので、もっと詳しく解説していきます。

専門調査員の仕事内容

専門調査員の仕事内容は派遣される館によって異なるので、ここではあくまで一般論と私の経験に則ってお話します。

外務省在外公館専門調査員とは、「専門調査」という名が示すとおり、在外において日本国の外交に役立つ情報を収集することを主だった業務にする人たちです。

在外公館の本官(※外務省他から赴任してくる人。外務省の総合職や専門職、一般職の他、他省庁や警察組織、民間からの出向所を含む)には、情報収集、訓令執行、人脈形成、要人往来・交流、現地職員管理等々あらゆる仕事があり、全ての業務に対して100%のリソースをさけるわけではありません。

多忙を極める本官の仕事を、主に情報収集面で支えるのが専門調査員の仕事です。

具体的に、現地報道のフォローにはじまり、日本の外交にとって有益な現地の知識人・専門家をリストアップし、そういう人達と会い、意見交換を行って得た情報を公電の形にし、本省に伝達します。

なので、専門調査員は、自分から積極的に現地のいろんな人と会って情報収集をすることが基本なので、知らない外国人相手に物怖じせずに会い、グイグイ質問できるような人でなければ厳しいです(例外はあります)。

また、日本からお偉いさんがその国にやってくる場合は、本官は猫の手も借りたいぐらい忙しいので、専門調査員にもロジ(受け入れのための準備)のお手伝いをやってもらったりします。

専門調査員の給料や福利厚生、勤務形態

専門調査員の給料

国際交流サービス協会のHPでは、「月額報酬はおおよそ33万円~67万円(別途、住居費規定額及び賞与を支給)」とあります。

専門調査員は、労働者派遣法に基づき、外務省とは別組織から派遣される「派遣社員」にあたるので、給料も派遣元である国際交流サービス協会から支払われることになります。

外務省から給料その他を受け取っている本官と比べると、勤務形態が異なる分、そこまで大きな格差はなく、十分な給料と言えるでしょう

専門調査員の福利厚生

専門調査員は福利厚生もしっかりしています。

例えば、専門調査員は、赴任先に家族の帯同することが可能ですし、配偶者を帯同する場合は配偶者手当も出ます。

ただ、本官であれば支給される子女教育手当が、専門調査員の場合は支給されないので、その辺はネックですね。

専門調査員の勤務形態

専門調査員は、要人往来等よほど大きなイベントで忙しくない限り、定時で帰れる場合がほとんどです。

特に、最近は専門調査員や派遣員の働き方が見直されてきており、なるべく専門調査員や派遣員は定時で帰らせる動きが出てきました。

プライベートもしっかりと確保できるので、海外生活を思いっきり楽しめるのではないでしょうか。

本官の働き方改革はいつやってくるのだろう・・・(切実な想い)

専門調査員の年齢層

専門調査員は、基本的に修士さえ持っていればなれるチャンスがあるので、20代半ばの人もいます。

ただ、専門調査員になる人はそれこそ多種多様で、民間企業を退職してなる人、大学院卒業後ひたすら専門調査員を歴任する人、学者や新聞社勤めの人が一時的に求職して専門調査員になるなど、さまざまなケースがあります。

なので、館によっては30代、40代、まれに50代、60代の専門調査員がいたりします。

私が在外公館で働いていたときは、2人の専門調査員の方がいましたが、2人とも私より年上の方でした。

専門調査員になるためには?

まず受験資格(修士または学士+職歴)を持っていることが最低条件です。

そのうえで、国際交流サービス協会が定期的に春募集または秋募集をかけていますので、時期になったら協会のHPをよくチェックしておきましょう。

試験内容は、主に①外国語筆記試験、②論文試験、③外国語会話試験があります。

専門調査員として働くからには、赴任先の国の人と会話できなければ話にならないので、英語またはその国の語学が必要です。

論文試験は、決まった内容がなく、試験を作る人によってさまざまなパターンがあるので、論文試験の対策は正直難しいです。

ただ、自分が赴任したいと思っている国の、基本的な政治情勢や経済状況、最新の情勢をしっかりと把握し、自分が外交官となった場合に日本国の国益に資するためにどのような外交政策を立てるか、ということを常に頭で考えておくと、ある程度の論文試験に対応できるでしょう。

私自身、在外公館勤務時代に、専門調査員の試験答案を採点したことがありますが、赴任先の国の基本的情勢をちゃんとフォローし、自分なりの考えを持っている人がたいてい受かります。

試験の特性上、人物試験で合否が大きく左右されることは少なく、やはり受かるためには、筆記試験でどれだけ多くの点数を取れるかが合格のカギです。

専門調査員の任期終了後のキャリアは?

専門調査員の任期は決まっており、原則2年で、一回だけ一年間延長することが可能のようです。

ただ、最近は外務省及び国際交流サービス協会が方針を変えたようで、延長も原則認めない方向に変わったようです。

このように、専門調査員は任期があらかじめ決まっているので、任期終了後にどこに行くのか気になるところですよね。

ということで、自分がお世話になってきた元専門調査員の方々に、専門調査員になろうと思った理由と任期終了後の流れについて聞いてみました↓

元専門調査員Nさん(政務)
専門調査員着任時年齢:40代前半
理由と任期終了後:元々とある新聞社に勤めており、そこを休職して専門調査員になったので、任期が終わったら古巣の新聞社に戻った。新聞記者の中には、キャリアアップや出向感覚で、この専門調査員派遣制度を利用する人が多く、自分も上司の許可を得て調査員としてやってきた。古巣に戻ったら、多くの部下と仕事を持つことになって中々大変(笑)。専門調査員として、自分の好きなように仕事を決めてやっていた時代が懐かしい。

元専門調査員Sさん(政務)
専門調査員着任時年齢:30代後半
理由と任期終了後:専門調査員として赴任先に派遣される前は、とある大学の講師をしていた。専門調査員としてこの国で働くことは、自分の研究テーマに直接資するものだったので、応募したら受かった。実際、専門調査員として働き、赴任先で多くの人脈を作り、知識を吸収できたので、働けてよかった。任期終了後は、元の大学に戻り講師を続けつつ研究を進めている。

元専門調査員Aさん(広報・文化)
専門調査員着任時年齢:20代後半
理由と任期終了後:大学院卒業後に、ある国で派遣員をやったのち、専門調査員としてこの国に赴任した。自分は語学はあまり得意ではなかったが、WEB制作やSNS広報には人並に詳しかったので、現地職員の力を借りて、効果的な広報活動を行えたと思う。この間、語学も伸びたし、ITにもっと詳しくなった。任期終了後は、外務省の専門職試験を一回受けたが落ちたので、また新たな国の専門調査員試験を受けて無事受かった。次の任期終了後は、IT技能を活かした職を見つけられたらと思う。

元専門調査員Iさん(経済)
専門調査員着任時年齢:20代半ば
理由と任期終了後:学んできた語学を活かしたいという気持ちがあったので、大学院卒業前に専門調査員試験を受けたら受かった。経済担当の専門調査員として赴任したが、自分は経済協力もやりたかったので、経済分野の情報収集をやりつつ、赴任国政府の経済省職員とも深く付き合った。赴任国のJICA事務所の人とも連携して、日本が外国に対して行っているODAの一端を学べる良い経験だった。任期終了後は、とある国際NGOの職員となって、人道支援コーディネーターとして働いている。

専門調査員はいろんな経歴を持っている人が多く、この人達との出会いと交流は、自分にとって人生の大きな糧となりました。

外務省在外公館派遣員とは?

専門調査員同様、派遣員も国際交流サービス協会から在外公館に派遣される職種です。

国際交流サービス協会HPには、派遣員について以下のとおり書かれています↓

外務省在外公館派遣員とは、労働者派遣法の下で、わが国の在外公館(大使館、総領事館、政府代表部、領事事務所)に原則2年の任期をもって派遣され、主として館務事務補佐などの実務面にあたる傍ら、国際社会での経験を積み、友好親善に寄与してもらおうとするものです。
具体的な仕事の内容は在外公館によって異なりますが、主に語学力を活用した様々な業務の支援を行うこととなります。これには公用出張者が来訪する際の空港における作業やホテルの予約及び会計、庶務などの部署での文書作成や対外的な折衝への立ち合いなどが含まれます。

http://www.ihcsa.or.jp/zaigaikoukan/hakenin-01/

これだけだとやはりピンとこないと思うので、以下詳しく解説していきます。

派遣員の仕事内容

派遣員の仕事をイメージを一言で表すなら、「語学堪能な事務員」です。

派遣員は、原則、館の官房担当(会計、通信)の下について、官房業務の補助をします。

その仕事は、赴任者の航空チケットの手配、ホテルの予約、住居探しの支援、清算業務・銀行業務の手伝い、配車、会計書類作成などなど、非常に多岐に渡ります。

また、派遣員は「空港のスペシャリスト」と呼ばれ、館の中で一番その国の空港に精通する必要があると言われています。

実際、日本から公用出張者や偉い人が来るときは、空港でのオペレーションが非常に重要になってくるので、空港の設備に詳しく、空港関係者との人脈を有する派遣員の存在は、非常に重要です。

他にも、在外公館はさまざまなロジ的な仕事が存在し、館内皆派遣員さんのことを非常に頼りにしています。

四方八方からいろんな仕事を頼まれてしまう可能性がありますが、その分、館内で働く外交官全員と交流する機会が多分にあるので、交友関係が大きく広がると思います。

なお、私的な仕事や理不尽な仕事を頼まれるようなら、派遣員には断る権利があります。そんな輩には「それ、あなたの私的なお願いですよねえ?」とはっきり言ってやりましょう。

派遣人の給料や福利厚生、勤務形態

派遣員の給料

派遣元の国際交流サービス協会のHPによれば、「月額報酬はおおよそ24~39万円で、金額は派遣先により異なります」とのことです。

本官や専門調査員と比べたら、あまり高額の給料は期待できませんが、それでも日本の新卒と比べたら高めの給料をもらえるでしょう。

それに、赴任する国によっては、職歴なし20代前半でも、月々手取りで30万後半ぐらいもらえる場合もあります。

私の知り合いの若い派遣員はそれぐらいもらっていて、毎週末、赴任先の国のいろんな都市や村をブイブイ巡ってました。

家賃補助も当然出るので、「海外で働きつつ住みたい!けどアテがない・・・」という人にとっては、結構いい職種だったりします。

しかも、高校を卒業していさえすれば受験資格があるので、大学卒業後すぐまたは在学中に休学して来る人もいます。

派遣員の福利厚生

福利厚生については、専門調査員と比較したとき、配偶者手当が支給されません。

赴任先への家族の帯同は一応OKですが、配偶者手当も子女教育手当もないので、家族帯同での赴任は現実問題中々厳しいかもしれません。

実際、私は在外公館で働いていたときに、十数人の派遣員の人たちと関わり合いがありましたが、皆未婚者か単身赴任でした。

それでも、住居手当や賞与は支給されるので、個人的には、必ずしも家族帯同を諦める必要はないと思います。

むしろ、配偶者にとっても、子供にとっても、貴重な海外での暮らしを体験できるいい機会なので、家族みんなで赴任先へ行くのも悪くないと思います。

本官と違って、派遣員は労働者派遣法でしっかり守られています。本官と違って(泣)。残業もあんまりないですし、家族との時間も過ごせてグッド!

派遣員の勤務形態

上でも少し述べましたが、専門調査員や派遣員は、あくまで外務省の人間ではなく、国際交流サービス協会から派遣されてくる「派遣社員」なので、一般的に人間的な?生活を送ることが可能です。

昔であれば、館や上司によって、派遣員も馬車馬のように働かされる時代があったようですが、最近は、専門調査員や派遣員にはなるべく残業をさせないように配慮する動きが出てきました。

要人往来等、大きなイベントがない限り、派遣員は定時に帰ることができるので、海外で働きながら自分の好きなことをできますよ。

それに、たとえ休日出勤になっても、残業代はしっかり出ます(本官は残業しても出ません・・・)し、代休・振替休日制度もしっかりしてます。

もし館の上司や幹部が理不尽な要求をしてくる(残念ながら、こういう人、結構います)ようであれば、国際交流サービスを通じて外務省に苦情を入れてやりましょう。

専門調査員の年齢層

高卒以上で語学さえ堪能であれば誰でもなることができるので、平均年齢は25歳と結構若いです。

でも派遣員には年齢制限は基本的にないので、30代、40代の人もいます。

派遣員が初めての社会人としての仕事という人もいれば、いろんな経験をされた上で派遣員として働く方もいます。

派遣員になるためには?

高卒以上であれば、誰でも派遣員になれるチャンスがあります。

試験は、①語学試験、②一般常識、③日本語作文、④適性検査とありますが、どれもそこまで難しい内容ではないらしいので、日頃からの語学勉強と一般常識対策として時事関連対策本を一冊読んでおけば十分でしょう(書店に行けばズラリと並んでいます)。

募集は春秋と半年に一回あり、自分の希望する募集言語や赴任先があるかどうか国際交流サービスのHPを日頃からチェックしておきましょう。

派遣員に必要なのは、やはりどこまでいっても語学力ですので、赴任先の国の人と不自由なく会話できるぐらいの語学力は身につけておくべきべす。

派遣員は、現地の旅行会社や銀行、空港とやり取りをする必要があるので、コミュニケーションを取れるぐらいの言語力はないと、のちのちご自身が苦労することになります。

派遣員になった理由と任期終了後のキャリアは?

派遣員の任期も、今は原則2年で、よほどの理由がないと延長は難しいらしいです。

なので、ほとんどの派遣員は、派遣員時代から次の自分のポストを探す準備をしているものです。

幾人からの知り合いの派遣員経験者に、派遣員になった理由と任期終了後の流れについて話を聞いてみました↓

元派遣員Mさん
派遣員着任時年齢:20代半ば
理由と任期終了後:大学院卒業後に派遣員試験を受けたら受かった。海外生活をしてみたいと思ったので受かって嬉しかった。自分が赴任した国は業務量は多くなく、いつも定時に帰れた。英語ではなく、その国で使用されている語学を使って仕事をしていた。自分は英語を十分解するが、英語があまり話されてない国なので、コミュニケーションを取るためには英語だけでは不十分だった。任期終了後は、外務省専門職試験のために1年ほど時間を費やし、受かることができた(今はとある本省の部署で勤務)。

元派遣員Sさん
派遣員着任時年齢:20台前半
理由と任期終了後:大学を休学し派遣員を2年間務めた。大学で専攻している語学を使って仕事ができ、実践を通してさらに自身の語学力の伸びを実感できた。働きながら給料ももらえ、海外生活もできるので、派遣員制度は本当に良い制度だと思う。任期終了後は大学に復帰し、就職活動を得て今は民間企業で働いている。派遣員としての職歴を履歴書に書けたので、自分の希望の企業にすんなり入ることができた。

元派遣員Wさん
派遣員着任時年齢:20代後半
理由と任期終了後:大学院在籍中に派遣員を経験。ずっと勉強しかやってこなかったので、社会で働くことの一端を経験することができて良かった。語学はあまり真面目にやってこなかったが、派遣員時代の実践を通してだいぶ伸びたと実感する。派遣員として働くと、在外公館にはどのような人が働いており、館としてどのように動いているのかということが肌身で実感できた。特に、総合職や専門職の人たちの働き方を見て、自分も外に出て情報収集をしたり、人脈を広げていきたいという気持ちが強くなり、任期終了後は外務省に中途採用で入省した。

まとめ

以上、外務省在外公館専門調査員と派遣員について解説してきました。

専門調査員や派遣員は派遣社員という分類になり、任期が決まっていますが、この仕事を足がかりに外務省に本採用されたり、国際機関で働く人が多くいます。

「自分が培ってきた語学で仕事がしてみたい」とか「一度海外で仕事がしてみたい」と思っている方は、専門調査員・派遣員という仕事があることを思い出していただき、自分のキャリア形成の一助として検討してみてください。

今回は専門調査員と派遣員の話でしたが、外務省のプロパー職員(総合職、専門職、一般職)に興味のある方は、ぜひ以下の記事もご参照ください↓

  • この記事を書いた人

M

元外交官【経歴】語学留学から帰国後慌てて職探し ▶︎ 外務省入省 ▶︎ 本省→在外→本省→退職 ▶︎ 培った言語を活かして翻訳、言語教師 ▶︎ 2児の父 ● マルチリンガル(4言語) ● 公務員働き方改革を心から願う(国会待機消滅しろ)

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