本記事の内容
- 要人接遇マニュアルとは
- 外務省職員の仕事の大きな部分を占める接遇
- 行き過ぎた接遇は組織を壊す
最近、総理閣下の長男秘書官が海外で公用車を使って観光をしていた、というニュースが出回っていますが、このニュースを見て、自分が大使館で働いていたときのことを思い出しました。
今回の長男秘書官はある意味目立つ存在だったので、このような形で大々的に取り上げられていましたが、ぶっちゃけ政治家の海外出張はなんでもありです。
公用車を使用した観光なぞかわいいものです。
今回は、政治家が海外に出張したとき、我々外務省・大使館は何をしているのかという点について、「要人接遇マニュアル」に沿ってお話します。
もくじ
要人接遇マニュアル
これはあまり世間では知られていないことですが、官僚が政治家などの偉い人を接遇する際には必ず対応マニュアルがあります。
省庁のトップ、つまり大臣は、そのときの政治の状況や選挙後の内閣改造によって、非常に短いスパンでコロコロと交代します。
内閣改造を得ても残留する大臣はいますが、どんなに長くても5、6年で変わります。
そして、省庁の政策や方針は、トップが誰になろうとも、その根本が劇的に変わることはまれですが、接遇については別です。
トップになる人は、当然それぞれ性格も重視するところも異なるので、その人に合わせた接遇というものが必要になってきます。
なので、接遇マニュアルは、その人をどのように取り扱えば穏便に事を進められるかというテクニックであり、取扱い説明書です。
このマニュアルがあるのとないのでは、接遇を行う省員にとっては死活問題となります。
マニュアル通りに接遇をやれば、少なくともその人の逆鱗に触れるということは滅多にありません(たまに瞬間湯沸かし器みたいな人もいるので、それは事故と思ってあきらめるしかありません)。
トップの大臣も所詮人ですから、気に入らないことがあればすねますし、逆鱗に触れれば怒号を放ちます。
外務省の場合
外務大臣を支え、日本にとって最善の外交を行うためには、首相や大臣、その他力を持った政治家が外遊をする際に、気持ちよく仕事をしてもらうことは非常に重要です。
接遇マニュアルの内容
接遇マニュアルは、それこそ接遇対象に関するあらゆる情報が書かれています。
接遇マニュアルに書かれていることは、いわゆる一般的・儀礼的なことではなく、まさにその接遇相手専用のことが書かれています。
例を上げてみましょう。
- たとえばA大臣は、外遊する際おみやげをたくさん買うので、その国のお土産所をしっかり調べておくべし、とか
- B官房副長官は、毎朝ジョギングをするので、お付きの人は場合によってジョギングに一緒に付き合う、
- C大臣は、外遊先でも、日本で売られているこの水しか飲まない、
などなど、非常に細かい指示が接遇マニュアルには書かれています。
私個人としては、正直、非常にくだらないマニュアルだと思いますが、外国慣れをしておらず、英語も話せない日本の政治家は、外国であろうと日本の常識を当然のように要求してきます。
他の国の外交官と、この日本の接遇について話したときは、盛大に驚かれ笑われたものです。
日本外務省の若手がどんどん辞めていくのは、こういうところに理由があるのでしょうね。
外務大臣の場合
日本の外交を担う外務大臣も十人十色であり、時々の大臣によって大臣接遇マニュアルの「分厚さ」は全く異なります。
私が覚えている限りでは、K大臣のときが一番マニュアルが薄く、無茶苦茶な要求もせず、外遊先の突発的な出来事にも臨機応変に対応してくれる人で、非常にやりやすく、尊敬の念さえ持つことができました。
他方、イニシャルは隠しますが、とある大臣は大変傍若無人な方で、外遊先では必ずアイスコーヒーを飲むのですが、アイスコーヒーに入れる氷の数を指定したり、コーヒーとミルクを入れる順番を指定きたりと、常軌を逸した対応を人に要求する御仁でした(〇〇キングなんて呼ばれていましたっけ
日々疲弊していく外務省若手
このように、今は官僚にとって議員は圧倒的に上の立場の人であり、議員の中でも有力者がなる大臣は、官僚にとって神様みたいな存在です。
その人の逆鱗に触れることは絶対あってはならないことなので、このような接遇マニュアルなんてものが存在するわけですが、これを実行しなければならない若手外交官は日々疲弊していくのみです。
せっかく難関の試験を突破して、日本の外交のために華々しく活躍するぞ!と思っていても、待っている現実はこんなものです。
今回のニュースのように、要人が外国に行った際には何をしているのか、という普段知られていないことが世間にも明るみになることは個人的に良いことだと思っています。
特に、外務省の場合、このような接遇が発生するのは海外であり、海外であれば国民の目も中々届かないので、政治家の先生方は羽を伸ばすかのようにとんでもない要求をしてくるものです。
そのため、外務省職員は、接遇マニュアルを下に、お土産先やレストラン候補、観光先などさまざまな下調べをして接遇に望むわけです。
まあ「外交」をしにわざわざ莫大な税金をかけて外国に来ているのに、旅行会社みたいな仕事ばかりの外務省若手職員には気の毒な想いしか湧きません。
優秀な若手が本当に活躍できる時代が来るといいですね(他人事)。